ニュース

JTOWER、5年間で1000億円投資へ インフラシェアリング拡大と社会課題解決に挑む

 JTOWERは、2025年度戦略発表会を開催した。2024年度の売上高は約158億円となり、順調に売上を拡大。体制変更後も目指す事業規模に変更はなく、導入施設数および屋外タワー本数の拡大を目指す方針が示された。

JTOWER 代表取締役社長 田中敦史氏

2024年度の業績と新経営体制を発表

 2025年3月末時点で、屋内インフラシェアリング(IBS)の導入件数は680件に達し、1物件あたりの平均利用キャリア数(テナンシーレシオ)は3.0に到達。これはグローバルの大手タワー会社でも稀な実績だと強調された。

 屋内シェアリング事業は2014年9月にサービスを開始し、ショッピングモール、病院、ビルなど幅広い施設カテゴリーで導入が進展。近年はアリーナやスタジアムへの導入も増加している。消費電力を約35%削減する共用装置がららぽーとに導入され、東京ミッドタウン八重洲でも5G通信環境の整備を実施した。

 屋外タワーシェアリングでは、NTTドコモから取得した7232本と新設130本を合わせ、計7362本の鉄塔を運用。取得した鉄塔の移管作業は3年をかけ、ほぼ完了した。当初、テナンシーレシオが1だったこれらの鉄塔も、徐々に他事業者の利用が進み、2023年10月には静岡の鉄塔で複数事業者の利用が始まった。通信キャリア以外にも、メトロウェザーの風観測機器や、高頻度取引(HFT)を行う金融機関向け通信インフラの設置など、多様な利用が増えている。

 さらに、2027年開催の国際園芸博覧会の会場一帯の通信環境整備事業者にも選定され、新設鉄塔を建設し、複数事業者による共同利用を推進していく。

 2025年3月期の売上高は約158億円となり、順調な成長を維持している。

 2024年、米Digital Bridge(デジタルブリッジ)に買収されたJTOWERは、今年1月、上場廃止と同時期に新たな経営体制を発表。代表取締役の田中敦史氏、副社長の桐谷裕介氏と中村亮介氏はそのまま、新たな社外取締役としてDigital Bridgeからジャスティン・チャン氏とウィルソン・チュン氏を迎えた。また、藤森義明氏(現日本オラクル会長・元LIXIL社長)も社外取締役に就任している。

Digital Bridge、日本市場とグローバル戦略を説明

Digital Bridge マネージングディレクター/JTOWER 社外取締役 ウィルソン・チュン氏

 Digital Bridgeは、デジタルインフラ資産に特化した世界有数の投資会社。運用資産は約1000億米ドル、45カ国で展開し、30年以上の実績を持つ。タワー、データセンター、ファイバー、スモールセルなど多様なデジタルインフラ資産を統合運用する専門性を強みとする。

 同社のポートフォリオには、世界各地のデータセンター(最大16GW)、JTOWERを含む9社以上のモバイルタワー運営会社(50万超のタワーサイト)、各種ファイバー網企業が含まれる。

 資産管理・運用の専門性、長期志向の投資姿勢、事業成長を支援する創業者・経営陣との連携、グローバルポートフォリオによる相乗効果、現地チームによる知見、100名超の投資専門家、世界の主要機関投資家とのネットワークを強みとしている。

 成功事例として、米国最大のプライベートタワー会社Vertical Bridge、事業規模8倍に成長したDatabank、欧州・アジア太平洋に拡大したVantage Data Centersを紹介し、単なる投資ファンドではなく「成長のパートナー」であると説明。AT&T、Verizon、Vodafoneなど主要通信事業者との豊富な協業実績もアピールした。

 インフラシェアリングについては、AIなどによるデータ需要の急増がネットワーク投資を促進すると分析。日本市場でも料金競争・設備投資抑制・新規参入による市場構造変化から、インフラシェアリングの必要性が急速に高まっていると指摘。JTOWERには資金提供にとどまらず、グローバルMNOとのネットワークや知見、内部システム開発のノウハウも共有し、事業成長を全面支援する方針を示した。

インフラシェアリングの拡大と社会課題解決へ

 田中社長は、社会環境の変化によりインフラシェアリングの役割も進化していると指摘。従来のコスト削減に加え、キャリア競争の経済圏シフト、政府のネットワーク効率化要請、施設側の通信ニーズ多様化、災害時復旧対応、保守リソース確保困難や設備老朽化など、さまざまな社会課題への対応が求められていると語った。

 そこでJTOWERは、日本の通信インフラを安心して任せられる、ニーズを先取りしたソリューション提供企業を目指すと表明。

 今後5年間で、設備投資・技術開発・人材確保に総額1000億円規模の投資を行う計画。その基盤で3つの重点戦略を推進する。

シェアリングの面的拡大

 これまで新築ビル中心だったIBS導入を、今後は既存建物の設備更新需要にも対応。今年4月に専任の事業本部を新設し、キャリアの要望に応える体制を整えた。

シェアリング領域の拡大

 新たな装置・サービスの開発を通じ、領域拡張を目指す。具体的には、Open RAN対応5G共用無線機(RU)の開発を完了。建物内の通信インフラをJTOWER設備で完結でき、キャリア側の運搬・工事・設置スペースも不要。消費電力も約70%削減可能と試算。キャリアからの要請ではなく、JTOWER主導で開発し提案を進行中。今年度内の導入開始を目指す。また、総務省のフロントホールシェアリング検討にも積極的に関与する方針。

社会課題の解決

 ドコモ譲渡の鉄塔を中心に他社利用が進む中、将来的には鉄塔の統廃合も推進。建設後15〜20年が経過し、塗装・メンテナンス投資が必要な鉄塔も増加する時代を迎える。キャリアも同様の課題を抱えており、統廃合を見据えた主体的取り組みを進める考えを示した。

 沖縄県今帰仁村の鉄塔では、当初ドコモのみだった利用が、4キャリアすべての利用を希望する稀有な事例に発展し、順次運用が始まる。

 今後5年間で、屋内IBSの累計導入件数を現在の680件から約3倍の2000件へ拡大。新規大型開発、キャリアの設備更新、新5G対応装置導入を原動力とする。屋外鉄塔については、日本に約8万本ある大型鉄塔のうち、共有可能な約6万本の半数、約3万本の運用体制構築を目指すと表明した。

 質疑応答では、今後の売上成長や黒字化の見通しについても質問があった。田中社長は、非公開企業のため数値開示は避けつつ、これまでの成長ペース維持と、屋内シェアリングに加えた設備更新需要の増加で売上拡大を見込むと説明。利益面では成長投資を優先し、人材確保や装置開発、案件拡大を進める方針。赤字の拡大は避け、中長期の事業価値向上を重視する考えを示した。

 Digital Bridgeとの連携も注目を集め、ウィルソン氏は資金提供にとどまらず、グローバルの知見を活かして事業成長を支援すると説明。田中社長も、ベライゾンやGD Towersの事例を参考に国内事業へ応用する意向を示した。

 Opensignalによる評価がJTOWERに与える影響については、田中社長はOpensignalが直接の要因かは不明としつつも、全キャリアでトラフィックが大きく伸びており、それに対応するための設備投資が増加していると指摘。以前の値下げ競争で抑制されていた投資も、現在は回復基調にあると述べた。

 このほか、Open RAN対応5G共用無線機の開発状況や、屋外鉄塔のテナント比率を中期的に1.5〜2.0倍に引き上げる計画も説明。人口密集地でのデータ需要拡大を背景に、今後もデジタルインフラ投資の機会は広がるとの見通しを示した。

Open RAN対応5G共用無線機